夕暮れのマンションでの出来事

それは先日、初夏の夕暮れのことだった。
家族三人散歩を兼ねて出かけた帰り、私だけ買い物した物を先に冷蔵庫へ仕舞うため先に自宅へ入った。
夫と息子は、マンションの踊り場から外を眺めておしゃべりしていた。

我が家のあるマンションは古く廊下や踊り場の音が部屋の中によく響く。
下の階との間の踊り場からのしゃべり声が消え、息子が階段を登り廊下を走る音がした。
そして「あら、かわいい」と老女の声がした。

息子の返事がない。
あとから来ている夫の声もしない。
息子と夫が挨拶している風ではなかったので、ちょっと不思議に思った。
ご近所の人なら必ず挨拶は交わすし、軽く世間話はする。
知らない人でもいたのか?

玄関を開けて夫と息子が入ってきた。
「誰と会ったの?」と夫に尋ねると
「誰にも会ってないよ」と。
「え、『あら、わかいい』って声が聞こえたよ?」と声のことを言っても
「いや、誰もいなかったよ」と返された。

夫がそんなつまらない嘘をつくはずもないし、息子も誰かに会ったら、すぐ報告するのにそれもない。
では、あの声は?

夕日が沈みかけた空を見ながら、ふと思い出した。
もしかしたら、昨年亡くなったご近所のおばあちゃんかな?と。
現実的ではないけれど、何となく納得した。

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